前回の記事で紹介したディスクリートヘッドホンアンプの特性を実測とシミュレーションで評価します。

電源電圧はすべて±11.2Vです。出力を1kΩの抵抗でプルダウンしているため、「無負荷時」と記載のある場合でも事実上1kΩ負荷と等価です。

実測

周波数特性

ヘッドホン負荷時でも可聴域でほぼフラットな特性を確保できています。

周波数特性(無負荷時)
周波数特性(無負荷時)
周波数特性(ATH-M50(38Ω)負荷時)
周波数特性(ATH-M50(38Ω)負荷時)
  • Picoscope2204AでFRA for Picoscopeを使って測定
  • 信号源インピーダンス600Ω

出力抵抗

高域では帰還量が下がるため出力抵抗が増加していますが、可聴域で1Ω以下を保っています。

出力抵抗の周波数特性
出力抵抗の周波数特性
  • 電流注入法による
  • 負荷抵抗値は9.927Ω

ステレオクロストーク

-60dBrだと聴覚でも分かるので、もう20dBくらいは欲しかったところです。ディスクリートだと部品点数が増えるので妥協してベタGNDにしたのが敗因でした。せめてLRのGNDは分離するべきだったようです。

ステレオクロストークの周波数特性
ステレオクロストークの周波数特性(ATH-M50(38Ω)負荷時)
  • Rchから100mVを出力し、Lchの出力電圧をPicoscope2204Aで測定
  • 信号源インピーダンス600Ω

スルーレート

上昇スルーレート:0.38V/μs

下降スルーレート:0.25V/μs

  • 無負荷時
  • 10%~90%

出力DCオフセット

容量カップリング前:1.2mV

容量カップリング後:4μV

  • 入力短絡/無負荷時
  • 右chの値をKEITHLEY Model192で測定

容量カップリング前の値は入力段のバイアス調整次第で変化します。この値であればDC結合でも大丈夫そうですが、経時変化を考えるとディスクリートではAC結合にしておきたいと感じます。DCサーボでも良いのですが、DCサーボ用のオペアンプまでディスクリートで作ると回路規模が大きくなりすぎるので悩ましいところです。

シミュレーション

シミュレーションでは入出力のフィルタ類はすべて省略し、オペアンプそのものについて評価しました。シミュレーションソフトはLTspiceを使いました。

オープンループゲイン

直流利得は113dB、帯域幅は9.5Hz、単一利得周波数は4.4MHzです。直流利得は十分大きいですが、帯域が狭いため人の聴覚感度の最も高い数kHzの利得は70dBを下回ってしまっています。増幅段をカスコード化するか、位相補償を工夫して、帯域幅を増やす必要がありそうです。

オープンループゲインのBode線図
オープンループゲインのBode線図(無負荷時)
  • ミドルブルック法による

全高調波歪率(THD)

$6.5V_{RMS}≒9.2V_{P}$程度で飽和します。実際の値がシミュレーションよりも10倍程度悪くなっていると見積もっても十分な値を確保できていると考えられます。

全高調波歪率
全高調波歪率(38Ω負荷時@1kHz)

同相信号除去比(CMRR)

シミュレーションでは抵抗やトランジスタの特性が揃っているため、非常に良い値になっています。ディスクリートでは差動対の抵抗やトランジスタの相対精度がICと比較して低いため、実際のCMRRはこれよりも大分悪い値になっていると考えられます。時間があれば抵抗やトランジスタの誤差まで含めたモデルで解析してみようと思います。

同相信号除去比の周波数特性
同相信号除去比の周波数特性(38Ω負荷時)

まとめ

ステレオクロストークを除いて、まずまずの結果ではないでしょうか。聴感でも、特にディスクリートと言われなければ気づかないと思います。

差動対の相対精度を出せないのがディスクリートオペアンプの最大のウィークポイントだと考えています。実際、出力DCオフセットは入力段のバイアス調整を頑張っても1mV程度が限界です。

ちょうど先月に秋月電子が低周波増幅用のデュアルトランジスタHN1C01FU-GRを取り扱い始めたので、次回は入力段にこのトランジスタを使ったアンプの制作を考えています。

参考

  1. 藤井信生「アナログ電子回路-集積回路化時代の-」
  2. 首都大オーディオ研究会「MetroNotes 2017年夏号」
  3. fixer「フェライトビーズと歪率

One thought on “ディスクリートヘッドホンアンプを作る(測定編)

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